合計特殊出生率の高さが全国トップクラスを記録し、「奇跡のまち」とまで呼ばれた奈義町。
少子化対策への取り組みが他の自治体からも参考にされています。
そんな奈義町ですが、ネットの一部で奈義町の出生率が高いのは少子化対策の結果ではない、カラクリがある…とするネガティブな意見があるのをご存知でしょうか?
その理論としては、下記の二つが良く挙げられます。
・自衛隊駐屯地がある為に、若い子供を生む世代が町に移住してくる
これにはいくつかの意味が込められています。
まず1つには若い世代の流入が定期的に起こる環境であること。
そして自衛隊は収入が良いので、子供を授かりやすい環境であること
収入に関しては防衛庁が目安を発表しています。主な子供を授かる世代であろう20~30代は下記の通り。20代前半で374万、同後半で428万、30代前半で440万円、同後半で509万円とあります。(2024年1月時点)
20代は全国平均より50万円以上は高く、30代前半はやや落ち着いて差が縮まるものの30代後半からは民間企業との差が再び開き始めます。
これは確かに子供を産むのに経済的な不安が少ない立場にあると言っていいでしょう。
尚、奈義町はこの指摘に関して「隊員の多くは高校や大学を出たてで、出生率の押し上げにもさほど影響していない。」とも述べています。(あなたの静岡新聞・どうする少子化 国と地方ができることとは① 有識者インタビュー奥 正親町長の回答より。2024.01.11)
人以外の部分では自衛隊駐屯地がある事で町には特定防衛施設周辺整備調整交付金という交付金が出ており、その金額が約7千万円です。
町ではその一部を子育て支援の為の事業に充てています。これも自衛隊がいる事からくるメリットと言っていいでしょう。
・町の人口が少ないので、出生率が上がりやすい
これも厳密には自衛隊関連で先の主張に関連しますが、町の人口が少ない中に子供を多く授かり易い環境にある自衛隊の人々が移住してくるので合計特殊出生率が上がりやすいという事です。
ではそれぞれの意見について、私の感想を。
まず前者の自衛隊駐屯地があるために…という部分に関しては、個人的にはその通りだろうと考えます。
町が少子化対策を打ち出していく際に、成果が出やすい土壌があったというのは即効性の面でも強い筈です。
後者の人口の問題については、町の人口が少ないのに対し自衛隊のお陰で若い世代が多いという特殊な環境によるものだとする説です。
町の人口に対する自衛隊に従事する人の割合が分からないので、これが自衛隊の恩恵なのかは不明です。ただし人口ピラミッドを見ると他市町村と比べて20代が多いことが分かります。数字が上がりやすい環境にあるというのも事実でしょう。
ちなみにこの話題が出るのは、「他の駐屯地がある場所の出生率は対して高くないじゃねーか」というツッコミを封じようとする場合が多いです。
…しかし、だ。
奈義町の2005年時点での合計特殊出生率は1.43%です。
これには2005年の同数値が低かったという数字のマジックもあります。この時期の奈義町の合計特殊出生率は上げ下げが大きく、2005年以前でも2%前後を記録した年もあり、奈義町は全体的に見ると決して合計特殊出生率が低くない自治体でした。これは前述の自衛隊駐屯地による影響と考えて良いでしょう。その中で低めだった2005年の数字ばかりをフィーチャーしているのは、公平ではない気がします。
しかし少子化対策が行われた後の2019年に2.95%という高水準を記録しています。2005年以前にも駐屯地はあったのにこれだけの数字は出ていないわけですから、自衛隊がいるだけで記録できる事ではないのです。
上がりやすい環境があるとは言え倍に引き上げたのは間違いなく町の采配の成果でしょう。
なので他の自治体が参考にすべき取り組みは多く存在しますが、一方で奈義町に数字が上がりやすい環境がある事も考慮すべきなのでしょう。同じ取り組みをして、同じ効果が得られるわけではないと考えられます。
かと言って奈義町がなんの取り組みも行わずに自衛隊の存在に依存していても奇跡と呼ばれるような数字を出すことは出来なかったのです。
奈義町だけでも、自衛隊駐屯地の所在地と言うだけでも達成できなかった数字であり、誇るべき実績であると考えます。