免許返納後の悲劇|「安全のための決断」が招いた、岡山市用水路転落事故
2019年11月、岡山市東区金岡西町で、71歳の女性が用水路に転落し亡くなるという痛ましい事故が起きました。
報道によると、女性は事故の数ヶ月前に運転免許を自主返納したばかり。事故当時は、返納後に購入したと思われる不慣れな自転車での移動中だったようです。
このニュースは、地方に住む私たちに「免許返納」という美談の裏側にある、残酷な現実を突きつけています。
牙を向く「ガードレールのない用水路」
現場は、岡山市内でかねてより危険性が指摘されている、ガードパイプも街灯もない用水路でした。
夜間の視界が極端に悪い中、暗闇に口を開ける用水路は、慣れない自転車を操る高齢者にとって、あまりに過酷なトラップとなります。
「バランス感覚」の過信と自転車の盲点
多くのメディアや行政は「高齢者は免許を返納すべきだ」と声高に叫びます。しかし、車を手放した高齢者が次にどう動くか、そこへの想像力が欠けているのではないでしょうか。
岡山のような地方都市では、車の免許を取得して以来、自転車に乗っていなかったという人が少なからず存在します。
- 不慣れな操作:数十年ぶりに乗る自転車は、かつての感覚とは別物です。
- 身体機能の変化:70代を過ぎれば、咄嗟のバランス調整や視力は若い頃とは劇的に異なります。
「車が危ないから自転車なら大丈夫」という判断は、一見正しく見えて、実は非常に危ういバランスの上に成り立っているのです。
「足」を奪うことの責任。これが地方の現実
私も田舎の出身ですから、地方で車を失うことが「社会的な死」に近い不便さを招くことは痛いほど分かります。買い物、通院、友人との交流。自転車さえ乗れなくなれば、その全てが閉ざされてしまいます。
「加害者にならないために」と勇気を持って免許を返納した人が、その結果として命を落としてしまう。これほどやるせない話があるでしょうか。
結びに代えて
今回の事故は、個人の注意不足だけで片付けられる問題ではありません。 コミュニティバスの拡充やデマンドタクシーの整備、そして何より用水路の安全対策。免許を返納しても「安全に、尊厳を持って暮らせる街づくり」が追いつかない限り、こうした悲劇は形を変えて繰り返されるでしょう。
返納を促すだけでなく、その後の「足」をどう守るのか。今、社会全体で真剣に議論すべき時が来ています。
