岡山市に本社を置くバス会社、中鉄バス。
長らく赤字経営が続いていましたが、2024年3期では一気に経営を改善させています。
この中鉄バス、社名に「鉄」の字が残る通り、かつては「中國鐵道」という鉄道会社でした。現在のJR津山線と吉備線は、もともと同社が運行していた路線です。1944年(昭和19年)に国有化されたことで、同社はバス専業として再スタートを切ることになります。
「強引な国有化」という通説への違和感
「戦時中の国有化」と聞くと、多くの人は「軍事拠点として重要だから、国が強制的に召し上げた」というイメージを持つのではないでしょうか。 Wikipediaなどにも、電報一本で呼び出され、有無を言わさず判を押させた「非国民扱い」の強圧的な買収劇が記されています。
改正陸運統制令に基づく戦時買収は、大東亜戦争(太平洋戦争)完遂のための軍事目的を前面に押し出したもので、当時の国家総動員法などに基く強制的なものであった。
その方法は、突然買収対象となった私鉄会社の関係者が電報一本で呼び出され、行った先で有無を言わせず書類に押印を強要するといったもので、押さなければ国家総動員法により処罰されるばかりか、「非国民」扱いされるために従わざるを得なかったというものである。(引用:wikipedia「戦時買収私鉄」)
しかし、中鉄(中國鐵道)の場合は、事情が全く異なっていました。
「お願い、買って!」中鉄の悲死に物狂いの4度の申請
実のところ、当時の中鉄は経営がどん底の状態。自力での存続は難しく、むしろ「国に買い取ってほしくてたまらない」という立場だったのです。
中鉄はなんと、国に対して計4回も国有化の申請を行っています。
申請理由の中には「従業員の給与が他社より低く、将来への不安が広がっている」といった、切実すぎる内部事情まで含まれていました。
国鉄の本音「そんなボロボロの路線はいらない」
一方、買い手である国鉄側の反応は冷ややかなものでした。見送られ続けた理由は驚くほどドライです。
- 重要度の低さ:輸送においてそれほど重要な路線ではない。
- 将来性への不安:国鉄の他路線が延伸すれば、中鉄の需要はさらに下がる。
- 経営の不健全さ:国有化したところで、赤字を垂れ流すだけで改善の見込みがない。
つまり、「倒産寸前の会社を押し付けられたくない」というのが国鉄の本音だったのです。
最終的には戦時中の軍事需要を見込まれて4度目の正直で買収されましたが、中鉄の「熱意(粘り)」が国を動かした側面は否定できません。
結びに代えて
「戦時買収」という言葉の裏側にあった、崖っぷち企業のサバイバル戦略。 中鉄に限らず、当時は経営難の私鉄が「国有化」という名の救済を求めたケースは少なくなかったようです。
現在の津山線や吉備線の車窓を眺める時、この「売り込み」に奔走した先人たちの苦労を思い浮かべると、少し違った景色が見えてくるかもしれません。

