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湯女の櫛: 備前風呂屋怪談 岡山関連ワード解説
和気町出身の作家・岩井志麻子さんは岡山を舞台にした作品を多く発表しています。
今回は岡山の城下町の湯女であるお藤を主人公とした「湯女の櫛: 備前風呂屋怪談」に登場する岡山に関連するワードを解説していきます。
「ぼっけえ、きょうてえ」は作品ごとに解説しましたが、「湯女の櫛」ではワード自体が少ないのでまとめて紹介していきます。
尚、記事中で物語の核心部には触れませんが、多少のネタバレを含む場合がありますのでご了承ください
吉井川で水といっしょに桶で汲まれて
自分の身の上話をしないお藤が、生まれについて尋ねられた時の回答です。
吉井川は岡山三大河川に数えられる一級河川です。
流路は北から順に鏡野町、津山市、美咲町、赤磐市、和気町、備前市、瀬戸内市、岡山市東区です。
かなりぼかした表現ではありますが、暗に城下町の生まれではなくよそから岡山の城下町に流れてきた事を表現しているようにも思えます。
小早川秀秋殿のご落胤
お藤の生まれに関する噂の一つとして、作中に度々登場する表現です。
ただの湯女とは思えない雰囲気から出てきたものです。
小早川秀秋は作中では「前の前の城主」と紹介される、岡山藩の元藩主です。
秀秋は21歳で早世、子供がいなかった為に小早川家は改易になりました。
しかし子供がいたという説は実際に存在します。
秀秋が逝去した時に側室が妊娠していたというのです。その子は無事に生まれ、「羽柴秀行」の名前で知られています。
親戚筋に当たる足守藩・木下家に引き取られたと言われています。
牛窓には朝鮮通信使の一団が立ち寄る
お藤の出自でもう一つ挙げられるのが「挑戦王族の血を引く」です。
牛窓にはかつて挑戦王国から日本に送られた朝鮮通信使が寄港していました。
牛窓に伝わる唐子踊りは挑戦王国の文化の影響を受けていると見られています。
瑞雲寺
「親をまつる、菩提寺があるのか」という問の際に登場したのが瑞雲寺です。
瑞雲寺は岡山市北区番町に実在する寺院です。
これは先の「小早川秀秋のご落胤」に通じる話題です。
瑞雲寺は秀秋が葬られた寺院で、寺院の名称も法号の「瑞雲院殿前黄門秀巌日詮大居士」に由来します。
お藤が秀秋の子なら、親を祀る菩提寺は瑞雲寺となるのです。
小早川秀秋殿は生前より毀誉褒貶の激しい方
再び小早川秀秋の話題です。
毀誉褒貶(きよほうへん)とは褒めたりけなしたりする事の意味で、様々な評価があることを指します。
秀秋といえば関ヶ原の戦いにおける裏切り行為により、東軍を勝利に導いた立役者です。東寄りの立場で見れば功労者、西寄りで見れば裏切り者です。
岡山城主になった後は精神的に不安定だったようで、奇行と呼ばれるような言動も目立ちました。一方では岡山城を拡大するための二十日堀の造成、寺社領の再整備、総検知など、城主としては短い期間ながら様々な施策を行っています。
この辺りが「毀誉褒貶の激しい」という点なのではないでしょうか。
家老とお花の話し
作中で登場する家老とお花の怪談。
これによく似た話が津山市のお花宮に伝わっています。(関連リンク:女性の守り神・お花宮)
お花という名前、事の発端が家老の奥さんの嫉妬である事、奥さんが祟られ、祠を作って霊を鎮めるなどの点が酷似しています。
恐らくお花宮のエピソードにより怪談風な脚色を施したのではないでしょうか。