
僭称地名
僭称地名とは
「僭称地名」と呼ばれる地名があります。
文字からも推測できる通り、決していい意味で用いられる表現ではありません。
ウィクショナリーで「僭称」を検索すると、「自分の身分を超えた上の称号を勝手に名乗ること。または、その称号」とあります。
主に旧国名などの広域地名を一つの自治体が名乗る事を指します。
例えば岩手県奥州市。
奥州は陸奥国の別称で、国の範囲は福島県、宮城県、岩手県、青森県と秋田県の一部です。市が属する岩手県も含まれてはいるものの、一つの市が名乗るにはなかなか大きな地名と言えそうです。
岡山県瀬戸内市が名乗る瀬戸内は瀬戸内海沿岸にある県を含む瀬戸内地方で、含まれるのは主に岡山県の他に広島県、山口県、兵庫県、香川県、愛媛県とされています。
瀬戸内海沿岸部という意味では大阪府、和歌山県、徳島県、大分県、福岡県も含まれる大きな地名です。
ちなみに千葉県山武市も山武郡三町一村の合併の際に「太平洋市」を新市名に決定しましたが、さすがにこちらは規模が大きすぎた為に反対意見が相次ぎ断念しています。
世間的に許容されるのは瀬戸内海までのようです。
これらの地名が批判されるという事は余りありませんが、続いては批判が相次いだ事例をご紹介します。
利益も絡むと大変
僭称地名の多くは、「大きな地名を名乗ったね」という程度で終わる笑い話のようなものですが、利益が絡む問題が生じる事もあります。
2004年11月、兵庫県に丹波市が誕生しました。
この地名には少なからず反対意見や批判が起こっていました。
旧丹波国は京都側が面積の約8割を占め、兵庫県側は約2割。その兵庫で丹波を名乗られるというのは、京都側としても承服しがたい気持ちになるのは当然と言えそうです。
しかし丹波地名に関してはそれだけでは済みません。
丹波と言えば黒豆やシイタケ等の農産物や、陶器の丹波焼が広く知られていますが、丹波という名前の市が誕生する事で、これらの特産品のイメージが持っていかれるのではないかという懸念が生じたのです。
2019年には兵庫県側の旧丹波国に含まれるもう一つの市である篠山市が丹波篠山市に改称しています。合併を伴わない市町村の解消は非常に珍しく、これは丹波市が出来た事による影響に対抗する為に行われました。
令和に改元したのを機にというタイミングでしたが、丹波市発足から約15年間の苦労が伺えます。
こういう事例を見ていると地名というのは難しいものだと考えさせられますね。